Cool Earth コラム

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パイロットスケール実証試験

農業・食品産業技術総合研究機構
秋山博子

課題Ⅴ1では、実際の農耕地において、温室効果ガス削減技術のパイロットスケール実証試験を行っています。課題Ⅴ詳細↗️

農耕地における温室効果ガスフラックスの高精度測定

農耕地から発生する温室効果ガスのフラックスは季節変動が大きいため、高頻度かつ通年測定することが必要です。しかし、一般的な手動のサンプリング法(クローズドチャンバー法)では、チャンバーの設置やガスのサンプリングなど一連の作業をすべて人力で行うため、多大な労力がかかり、測定頻度や期間を十分にとることは困難です。

このため、本プロジェクトでは、農研機構がこれまでに開発した温室効果ガスの自動連続モニタリングシステムと、高頻度かつ低コストで自動サンプリングが可能な可搬型の温室効果ガス自動サンプリング装置(特許4831583)を用いた高精度測定を行っています。

温室効果ガスの自動連続モニタリングシステムは、自動開閉チャンバーからサンプリングしたガスをガスクロマトグラフにより自動分析するシステムです。一台のガスクロマトグラフに6つのチャンバーが接続されており、各チャンバーの約30分間の閉鎖時間に4回のガスサンプリングおよび分析を行います。この4回のガス濃度の上昇速度からガスフラックスを計算することができます。6つのチャンバーを4時間で一巡し、各チャンバーにつき一日6回ずつのフラックス測定を行います。

上記の装置は高頻度かつ通年測定が可能ですが、大型の固定式装置のため、他の農地に移動することはできません。このため、農研機構では可搬型の自動サンプリング装置も開発しています。この可搬型の自動サンプリング装置は、農地に設置した自動開閉チャンバー内のガスを設定時刻にサンプリングし、真空バイアル瓶に自動的に注入する装置です。バイアルビンは定期的に回収し、農研機構で開発した温室効果ガス3成分(CO₂, CH₄, N₂O)同時分析ガスクロマトグラフ(特許6843395、特開2019-174181)を用いて分析しています。

 

温室効果ガスフラックス高精度測定技術を活用した実証試験
温室効果ガス連続モニタリングシステムの自動開閉チャンバー

本ムーンショットプロジェクトでは、上記のような温室効果ガスフラックスの高精度測定技術を活用し、新たな温室効果ガス削減技術の実証試験を行っています。本プロジェクトで最初に取り組んでいるのは、東北大と農研機構の共同研究によるダイズ畑における根粒菌接種による一酸化二窒素(N₂O)の削減技術の実証試験です。N₂Oは二酸化炭素の約300倍の温室効果をもつ強力な温室効果ガスであり、またオゾン層の破壊の原因物質でもあります。世界のN₂Oの最大の人為的発生源は農業であり、約60%を占めています。このため、農耕地から発生するN₂Oを削減技術の開発は重要な課題です。

ダイズ根粒菌はダイズの根に根粒という組織を形成し、窒素固定を行いながらダイズと共生しています。ダイズの収穫期には老化した根粒は壊れますが、このとき根粒中の窒素を含む有機物が分解されることにより、N₂Oが発生しています。

東北大と農研機構はこれまでに共同研究をすすめ、微生物を用いた温室効果ガスの削減技術を世界で初めて開発しました。さらに、日本の農耕地の土壌に生息している土着ダイズ根粒菌からN₂Oを還元する酵素を持つ株を全国から採集し、これらの混合株をダイズに接種することによりN₂O 発生量を削減する技術を開発し、ダイズ畑からの収穫期のN₂O発生量を30%削減できることを野外実験で証明しました。本プロジェクトでは、これまでの研究をさらに発展させ、もともと農耕地土壌に生息している土着の根粒菌を全国から採集し、よりN₂O削減効果が高く、他のダイズ根粒菌との競合能が高い根粒菌をダイズ種子に接種することにより、ダイズ畑から発生するN₂Oを削減することを目指しています。

この技術では、もともと農耕地土壌に生息している土着の根粒菌を利用するため、現場に導入した際にも周辺環境への影響が小さいことが期待されることから、より農業現場で利用しやすいと考えられます。