task01
【 第1期 】
task01土壌構造
01 土壌構造と微生物生存の解明
本課題では土着微生物が土壌中で安定的に維持され、機能を発現するメカニズムを ①自然土壌における団粒構造と微生物叢の評価と②人工団粒作成・培養実験を基に検討します。これによって、窒素循環を担う微生物の生存・活動を制御する物理化学的な環境要因を明らかにします。


 
 炭素・窒素代謝を行う土壌微生物の多くは、「団粒」と呼ばれる微細な土壌粒子を骨格とする多孔質構造体を住み家にしています。そのため、異なる土壌において微生物叢が異なり、温室効果ガスの発生・吸収が異なる大きな理由は、微生物の住み家である団粒の微視的な物理化学的性質の差異にあると考えられます。課題I-1では、ここに着目し、土着微生物が土壌中で安定的に維持され、機能を発現するメカニズムの解明を目指します。そのために大きく2つのアプローチを用います。
 第一は、自然土壌における団粒構造微生物叢および微生物代謝プロセスの評価です。ここでは、畑や森林など自然条件で形成された土壌団粒を対象に、(A)団粒構造を壊さず、X線CTや微小電極・薄片作成技術を用いた、団粒内間隙の可視化や団粒表面から内部の環境勾配および微生物群集の直接観察・測定、(B)団粒構造を段階的に解体して得られる各サブユニットの物理化学特性および菌叢解析、(C)異なる発達段階にある土壌シリーズを用いた長期的な団粒構造形成、窒素代謝、およびそれに関わる菌叢の評価、を行います。
 第二は、土壌構成要素(サブユニット)から実験的に人工団粒を作成するアプローチです。土壌団粒の主要構成物は鉱物粒子ですが、少量の有機物やその他の接着物質により粒子同士が結合することで形成されると考えられています。そこで、自然土壌団粒の評価から得られた接着物質や団粒化促進因子を基に、自然に存在する材料(鉱物、有機物)を用いた人工団粒作成を行い、微生物群集の定着や機能に及ぼす影響を評価します。また、この知見を微生物の資材化技術の確立(課題Ⅲ)に活用します。

 
02 全土壌微生物ゲノムの解析およびN₂O無害化ポテンシャルの応用
土壌微生物の機能の多様性と微生物叢安定化機構を明らかにし、そのポテンシャルを最大限に活用していくためには、様々な先端的技術を開発していくとともに、そうした技術を用いて土壌微生物の全貌を解明していく必要があります。本項目では、シングルセルゲノミクス、ロングリードシーケンシング、バイオインフォマティクス、ネットワーク解析などの先端的技術に注目し、この目標に向けた研究を展開します。



 私たちのグループでは、土壌微生物の機能の多様性と微生物叢安定化機構を明らかにし、そのポテンシャルを最大限に活用していくために、様々な先端的技術を開発していくとともに、そうした技術を用いて土壌微生物の全貌を解明します。
具体的には、以下の技術に関する研究に取り組んでいます。

・微生物由来の長鎖DNAを効率よく抽出し、ロングリードシーケンサーを用いてシーケンスデータを取得する技術や、取得したシーケンスデータをアセンブリし、プラスミドを含む土壌微生物のゲノムを網羅的に解読する技術。
・微小液滴技術を用いて土壌微生物を単離し、単離した微生物を対象にシングルセルゲノム増幅物のライブラリーを構築する技術や、構築したライブラリーをもとにショートリードシーケンサーを用いてシーケンスデータを取得する技術。
・ゲノム情報解析に基づき、個々の土壌細菌のN₂OやCH₄代謝機能を推定したり、有用未培養菌を培養したりする技術。
・ゲノム情報や土壌メタゲノム情報を用いることで、窒素代謝に関与する遺伝子とこれが帰属する微生物種との関係性や、それらの空間的分布を解明する技術。
・土壌における窒素代謝の遺伝子ネットワークの全貌を解明するとともに、比較ゲノム・比較メタゲノムアプローチによって窒素代謝関連機能遺伝子を発見する技術。
・N₂O無害化に関与する微生物種間の複雑な関係性に関する膨大な情報を取得するとともに、DNAメタバーコーディング(DNA情報に基づく生物叢同定)によってそうした情報をネットワーク科学の観点から分析する技術。
・ネットワークデータや個々の細菌・真菌種のゲノムデータを統合することで、生態系内で中核的な役割を担っていると考えられる微生物種の組み合わせ(コンソーシア)を明らかにする技術。