根粒菌とマメ科植物による「根粒共生」は、空気中の窒素を固定してマメ科植物の栄養とすることができる反面、植物収穫期にN₂Oを放出することが知られています。本課題では、① N₂O無害化能力の高い根粒菌の探索及び無害化能力向上技術の確立、② 根粒菌・マメ科植物双方の根粒共生を制御する因子の機能解明と最適化、により、「N₂O無害化根粒菌が優先的に共生する根粒共生系」を確立し、N₂Oを削減します。

Ⅱ-1-a: N₂O還元活性強化株の探索・作出によるN₂O無害化
窒素施肥や作物残渣によりCO₂の約300倍の温暖化係数を持つN₂Oが農地から発生し地球温暖化の原因となっています。しかし、N₂O還元能のある根粒菌などの微生物接種により、農地から発生したN₂Oを削減できます。そこで、N₂O還元能のさらに高い根粒菌等の探索を行い、それらの土壌中の挙動を調べます。
1)N₂O還元活性の高いBradyrhizobium属根粒菌等の探索
種々の土壌生態系(根粒、土壌、根圏、根内)を対象に、N₂O還元酵素遺伝子群(nos)と高いN₂O還元活性を保有する菌株の大規模な探索を行い、N₂O還元活性強化株の基盤材料を獲得します。
2)N₂O削減根粒菌接種の土壌中の挙動
根粒菌等を接種した場合の土壌における生残性などの挙動はほとんど分かっていません。そこで、根粒菌の土壌中での動態を土壌マイクロコズム室内実験等により解析し、接種微生物の土壌生残性に影響する与える環境因子と微生物因子を明らかにします。さらに、微生物接種が土壌生物の多様性に与える影響評価を行います。
根粒菌等を接種した場合の土壌における生残性などの挙動はほとんど分かっていません。そこで、根粒菌の土壌中での動態を土壌マイクロコズム室内実験等により解析し、接種微生物の土壌生残性に影響する与える環境因子と微生物因子を明らかにします。さらに、微生物接種が土壌生物の多様性に与える影響評価を行います。

Ⅱ-1-b:接種根粒菌と宿主ダイズの共生最適化
土壌中には多種多様な根粒菌が存在するため、有用なN₂O還元高活性根粒菌を接種しても、ダイズに着生する根粒の約8割はN₂O還元活性を持たない土着根粒菌に占められてしまいます。したがって、N₂O還元高活性菌のN₂O無害化能力を最大化するためには、N₂O還元高活性菌の感染優占率を向上させる技術開発が必要となります。
根粒菌の感染能力は、根粒菌と宿主植物の間の「親和性」に基づいています。この親和性は、感染時に根粒菌が宿主植物に注入する「エフェクタータンパク」と、エフェクターを認識する宿主植物の「不和合性遺伝子」により制御されています。そこで、以下の2つの研究を推進することにより、N₂O還元高活性菌が優先的に共生し、高いN₂O還元能力を発現するダイズ・根粒菌栽培系の構築を目指します。
1)様々な不和合性遺伝子の探索と集積によるN₂O還元高活性菌との親和性の高いダイズ品種の育種
2)不和合性システムのメカニズム解明に基づき、1)のダイズ品種と高い親和性を持つN₂O還元高活性菌系統の選抜
土壌中には多種多様な根粒菌が存在するため、有用なN₂O還元高活性根粒菌を接種しても、ダイズに着生する根粒の約8割はN₂O還元活性を持たない土着根粒菌に占められてしまいます。したがって、N₂O還元高活性菌のN₂O無害化能力を最大化するためには、N₂O還元高活性菌の感染優占率を向上させる技術開発が必要となります。
根粒菌の感染能力は、根粒菌と宿主植物の間の「親和性」に基づいています。この親和性は、感染時に根粒菌が宿主植物に注入する「エフェクタータンパク」と、エフェクターを認識する宿主植物の「不和合性遺伝子」により制御されています。そこで、以下の2つの研究を推進することにより、N₂O還元高活性菌が優先的に共生し、高いN₂O還元能力を発現するダイズ・根粒菌栽培系の構築を目指します。
1)様々な不和合性遺伝子の探索と集積によるN₂O還元高活性菌との親和性の高いダイズ品種の育種
2)不和合性システムのメカニズム解明に基づき、1)のダイズ品種と高い親和性を持つN₂O還元高活性菌系統の選抜
2021年度
今泉(安楽)温子
Haruko Imaizumi-Anraku
農業・食品産業技術総合研究機構
生物機能利用研究部門 作物生長機構研究領域
グループ長
◎ 研究分野 土壌微生物、植物共生微生物
◎ 研究キーワード 根粒菌、脱窒、N₂O還元酵素
◎ 研究業績
- 東京大学農学部卒業、東京大学大学院農学系研究科博士課程退学(農学博士)。茨城大学農学部助手、茨城大学農学部助教授を経て平成8年東北大学遺伝生態研究センター教授。平成13年改組で現職
- https://scholar.google.com/citations?user=gBIKdJ0AAAAJ&hl=en
- https://lifescitohokuchiken.wordpress.com/
川原田泰之
Yasuyuki Kawaharada
岩手大学
農学部 植物生命科学科
助教
◎ 研究分野 植物-微生物相互作用
◎ 研究キーワード 根粒共生
李鋒
Feng Li
農業・食品産業技術総合研究機構
作物研究部門 作物デザイン研究領域
主任研究員
◎ 研究分野 植物遺伝育種学
◎ 研究キーワード 次世代シークエンス解析、 突然変異、 QTL解析、ゲノムワイド関連解析、集団遺伝学的解析
アルトゥール フェルナンデス シケイラ
Arthur Fernandes Siqueira
東北大学
大学院生命科学研究科
特任助教
◎ 研究分野 土壌微生物
◎ 研究キーワード 微生物, 脱窒, 根粒菌
岡崎伸
Shin Okazaki
東京農工大学
大学院農学研究院
教授
◎ 研究分野 植物共生微生物
◎ 研究キーワード 植物微生物共生、根粒菌、ダイズ、バイオ肥料
菅原雅之
Masayuki Sugawara
帯広畜産大学
准教授
◎ 研究分野 応用微生物学
◎ 研究キーワード 植物-微生物間相互作用、根粒菌
板倉学
Manabu Itakura
東北大学
大学院生命科学研究科
特任助教
久保田 健吾
Kengo Kubota
東北大学
大学院工学研究科
准教授
◎ 研究分野 環境工学
◎ 研究キーワード 環境微生物, 廃水処理
松尾歩
Ayumi Matsuo
東北大学 大学院農学研究科
助教
青木裕一
Yuichi Aoki
東北大学
大学院情報科学研究科
助教
◎ 研究分野 ゲノム科学、植物生理学、バイオインフォマティクス
◎ 研究キーワード 生物間物相互作用、生物学的ネットワーク、環境適応
大久保智司
Satoshi Ohkubo
東北大学
大学院生命科学研究科
特任助教
◎ 研究分野 土壌微生物
◎ 研究キーワード 微生物生態学
蘭正人
Masato Araragi
岩手大学
農学部植物-微生物群相互作用研究室
特任研究員
◎ 研究分野 植物分子生物学
◎ 研究キーワード
サマンティ ワトサラ ペルポラゲ
Samanthi Wathsala Pelpolage
帯広畜産大学
生命・食料科学研究部門
博士研究員
◎ 研究分野 応用微生物学
◎ 研究キーワード 根粒菌、ダイズ
原沙和
Sawa Hara
農業・食品産業技術総合研究機構
学振特別研究員PD
西田帆那
Hanna Nishida
農業・食品産業技術総合研究機構
任期付研究員
加藤広海
Hiromi Kato
東北大学
大学院生命科学研究科
助教
陶山佳久
Yoshihisa Suyama
東北大学
大学院農学研究科
教授
◎ 研究分野 森林分子生態学
◎ 研究キーワード 集団遺伝学、保全遺伝学、遺伝的多様性
寺本翔太
Shota Teramoto
農業・食品産業技術総合研究機構
作物研究部門
任期付研究員
◎ 研究分野 植物遺伝育種学
◎ 研究キーワード 根系計測、非破壊計測、3次元計測、イネ、ダイズ
サフィラ タサ ナーバス ラトゥ
Safirah Tasa Nerves Ratu
東京農工大学
GIR特任助教
◎ 研究分野 植物微生物
◎ 研究キーワード 植物-微生物相互作用、根粒菌
作物根に共生あるいは高親和性を示すN₂O無害化・固定細菌を探索・活用するとともに畑土壌の窒素循環微生物群集の機能解明を行い、畑地由来のN₂Oの無害化・資源化技術を確立する。また、水田土壌のN₂O固定細菌およびN₂O固定細菌コンソーシアムと それらのN₂O固定能の増強要因を明らかにして、水田由来のN₂Oの資源化技術ならびに水田のN₂Oシンクとしての利用技術の基盤とする。
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Ⅱ-2: 作物の植物根圏微生物によるN₂O無害化
産業革命以来、地球表面温度は約1.09℃上昇した。カバークロップ・不耕起で管理された環境保全型農法は土壌へのCO₂貯留効果を果たすことから、地球温暖化の緩和技術として注目されている。一方、土壌有機質炭素の増加と伴いN₂O排出量の上昇が問題になっている。本研究では、カバークロップ・不耕起連用土壌中の窒素循環型微生物の解明と、高N₂O還元活性を有する微生物資材の収集およびそれらの作物根圏定着技術の確立を推進している。
本研究では植物内生菌にも着目する。植物内生菌は土壌から植物体内へ感染するが、植物から供給される特定の物質や植物の防御応答などの強い影響を受けるため、多種多様な土壌中の微生物の中から特定の微生物に限られている。そこで、高いN₂O無害化能力をもつ植物内生菌を取得し接種資材とすれば、作物内で安定的に維持され機能させられると考え、飼料作物から高いN₂O無害化能力を持つ植物内生菌を探索している。
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Ⅱ-2: 作物の植物根圏微生物によるN₂O無害化
産業革命以来、地球表面温度は約1.09℃上昇した。カバークロップ・不耕起で管理された環境保全型農法は土壌へのCO₂貯留効果を果たすことから、地球温暖化の緩和技術として注目されている。一方、土壌有機質炭素の増加と伴いN₂O排出量の上昇が問題になっている。本研究では、カバークロップ・不耕起連用土壌中の窒素循環型微生物の解明と、高N₂O還元活性を有する微生物資材の収集およびそれらの作物根圏定着技術の確立を推進している。
本研究では植物内生菌にも着目する。植物内生菌は土壌から植物体内へ感染するが、植物から供給される特定の物質や植物の防御応答などの強い影響を受けるため、多種多様な土壌中の微生物の中から特定の微生物に限られている。そこで、高いN₂O無害化能力をもつ植物内生菌を取得し接種資材とすれば、作物内で安定的に維持され機能させられると考え、飼料作物から高いN₂O無害化能力を持つ植物内生菌を探索している。

Ⅱ-3:N₂O固定菌および鉄還元窒素固定菌の窒素変換機能解明に基づくN₂O資源化
近年我々は水田土壌において、N₂Oを無害化するだけでなく、有機態窒素へと変換するポテンシャルを保有する鉄還元細菌を発見しました。これに着目し、本課題では、鉄還元細菌のN₂O固定能について活性レベルで検証するとともに、活性を増強する技術シーズを開発する。また、室内ミクロコズム実験により実際の土壌中でのN₂O固定鉄還元細菌の動態を解明するとともに、世界中の土壌メタゲノムデータを収集して、N₂O固定細菌コンソーシアムの在り方を地球規模で解明する。
近年我々は水田土壌において、N₂Oを無害化するだけでなく、有機態窒素へと変換するポテンシャルを保有する鉄還元細菌を発見しました。これに着目し、本課題では、鉄還元細菌のN₂O固定能について活性レベルで検証するとともに、活性を増強する技術シーズを開発する。また、室内ミクロコズム実験により実際の土壌中でのN₂O固定鉄還元細菌の動態を解明するとともに、世界中の土壌メタゲノムデータを収集して、N₂O固定細菌コンソーシアムの在り方を地球規模で解明する。
2021年度
◎ 研究分野 土壌学
◎ 研究キーワード 土壌微生物、窒素循環、水田土壌、畑土壌
鮫島玲子
Reiko Sameshima-Saito
静岡大学
学術院農学領域
准教授
◎ 研究分野 土壌微生物
◎ 研究キーワード 脱窒 微生物群集構造 根粒菌
西澤智康
Tomoyasu Nishizawa
茨城大学
農学部
准教授
◎ 研究分野 土壌微生物学、分子遺伝学
◎ 研究キーワード 土壌微生物解析・土壌窒素循環
増田曜子
Yoko Masuda
東京大学
大学院農学生命科学研究科
特任研究員
伊藤英臣
Hideomi Itoh
産業技術総合研究所
生物プロセス研究部門
主任研究員
許振興
Zhenxing Xu
東京大学
大学院農学生命科学研究科
特任研究員
◎ 研究分野 土壌微生物
◎ 研究キーワード 嫌気性菌; 鉄の還元; 窒素循環; 细菌分類
郭永
Yong Guo
茨城大学
農学部
研究員
◎ 研究分野 微生物学
◎ 研究キーワード 微生物生態学、ゲノム、微生物相互作用
美世一守
Kazumori Mise
産業技術総合研究所
生物プロセス研究部門
特別研究員
◎ 研究分野 バイオインフォマティクス
◎ 研究キーワード 土壌微生物、メタゲノミクス、微生物ゲノミクス、群集生態学
成廣隆
Takashi Narihiro
産業技術総合研究所
生物プロセス研究部門
研究グループ長
◎ 研究分野 環境微生物
◎ 研究キーワード 微生物生態学、生物学的廃水処理プロセス
私たちは何かよくわからないものに出会った時、まずはよく「観察」しようとする。「百聞は一見に如かず」とも言うように、どれだけ詳細な説明よりも、実際に「見る」ことによって私たちの理解は大きく深まる。特に生物学においては、歴史的にも「観察」は重要な基本技術の一つであり、近年では優れた顕微鏡機器を用いたイメージング研究が各分野で様々な新知見をもたらしている。「土壌微生物の働きを利用して地球を冷却する」ことを目指す本プロジェクトでも、N₂O無害化・資源化微生物が土壌空間のどこにいて、どのように植物根圏に定着するのかを解明することが、それら微生物の応用利用に向けた研究開発の重要な一歩となる。そのためには、見えない土壌空間を実験室内で再現しつつ可視化する技術開発が重要となる。
そこで本課題では、環境制御可能な土壌チャンバーを備えたライブイメージングシステムを構築して、土壌内部における微生物・植物相互作用の可視化解析に基づき、N₂O無害化・資源化微生物の定着及びそれらのN₂O無害化・資源化活性を評価する栽培システムを確立する。この栽培システムを用いて、課題ⅡとⅣと共同で、本申請課題で確立するN₂OおよびCH₄無害化微生物の実用化のための最適利用条件を明らかにする。土の中の「見えない」世界を可視化し、詳らかにすることを目指している。


図 植物-微生物相互作用の現場を共焦点顕微鏡によりイメージング
2021年度
◎ 研究分野 植物ー微生物相互作用
◎ 研究キーワード 植物免疫、微生物生態、イメージング
永野惇
Atsushi J. Nagano
龍谷大学
農学部
准教授
◎ 研究分野 トランスクリプトミクス
◎ 研究キーワード RNA-Seq, 植物, 気象
野村康之
Yasuyuki Nomura
龍谷大学
食と農の総合研究所
博士研究員
武田和也
Kazuya Takeda
龍谷大学
食と農の総合研究所
博士研究員